小河原誠

夢を見た。夢のなかで目が覚めて掛け布団のほうを見ると、真ん中あたりから煙が出ている。よく見ると、タバコの吸殻が掛け布団の上でくすぶっている。慌てて振り払おうとしたが、腰が抜けた感じで体が動かない。金縛りにあったよう。大声で叫んだような気がする。それで目が覚めた。 闇のような不安に襲われながら安禄山のことを思い出していた。気持ちが収まってきていたのだろう。むかし読んだ井上靖の小説のなかの話なのだが、安禄山は乱敗れて殺されたあと、へその辺りにろうそくを立てられて火をつけられた。あるいはろうそくは立てずへそに火をつけられただけだったかもしれない。ともかく、それが1ヶ月も燃えつづけていたという。塚のような巨体から煙がゆったりと出て、それが夕闇のなかに溶けていくさまが目に浮かんでいた。 夢であれ、うつつであれ、ぼんやりとした不安に襲われている世界が私の世界だと夢は告げている。私は安禄山であって、すでに死せる人間であり、へそに火でも点けられればいい人間なのだろうか。わからない。でもいつか、ゆらゆらと闇に消えていくことだけは間違いなさそうだ。